チェストツリー

 「純潔(清純)な木」という意味をもつチェストツリー(chaste tree)。日本では、その葉の形やつき方が、オタネニンジン(俗に朝鮮人参、薬用人参といわれるもの)に似ているところから、「セイヨウニンジンボク(西洋人参木)」というちょっと味気ない名前で呼ばれることもあるようですが・・・。花は、ライラックに似た、淡い紫色。夏の野原で、涼しげな姿を見せてくれます。

 チェエストツリーにはまた、「Monk’s Pepper (修道僧の香辛料)」という異名があります。その香りには、性欲減退作用があるとされ、修道僧たちが、性欲を抑えるために使っていたことから、こう呼ばれるようになったと伝えられています。
 ちょっと切ないエピソードですが、このことからもわかるように、チェストツリーが、ホルモンの働きに何らかの影響を及ぼすことは、かなり古くから知られており、母乳を出やすくする、不妊を改善する、更年期の症状をやわらげる、にきびを治すなど、民間療法として、さまざまな用途に使われてきました。
 最近は、そのメカニズムも明らかにされつつあり、ドイツでは、月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)の治療にも使われるようになっているようです。
 PMSとは、月経が始まる2週間くらい前にみられ、月経が始まるとなくなる症状のこと。胸の張りや痛み、むくみ、悪心、動悸、腹痛、疲労感、イライラ、ゆううつなど、さまざまな症状を呈します。それだけに、その症状がPMSによるものであることに気づかず、悩んでいる女性も少なくありません。
 チェストツリーには、女性ホルモンの一種であるプロゲステロンや、乳汁の分泌に関係しているプロラクチンなどの分泌をコントロールする働きがあり、それによって不快な症状がやわらげられると考えられています。
 今のところ、大きな問題となるような副作用や他の薬剤との相互作用はほとんど報告されていませんが、その作用を考えると、ホルモン療法を受けている人、経口避妊薬を使用している人、ホルモンが関与する疾患(子宮内膜症、子宮筋腫、子宮がん、乳がんなど)のおそれがある人などでは、服用中の薬剤の作用や症状に影響を与えることがあるかもしれません。何か気になる症状があるときには、自分一人で抱え込んでしまわずに、医師や薬剤師に、相談するようにして下さい。

 南ヨーロッパ地方では、チェストツリーで作った杖は、旅人を守るともいわれ、巡礼の人たちに使われてきたとも聞きました。苦しいからだ、つらい心・・・ヨーロッパの人たちは、さまざまなところでチェストツリーと関わってきたことがわかりますね。