β‐カロテン

 ヴィヴィッドな赤のトマト、緑キラキラのピーマン、幸せそうな黄色のかぼちゃ。太陽の光をそのまま吸収したような、夏の野菜たち。ビタミンC、ビタミンB1、カリウムなど、汗をかく暑い時期に欠かせない成分を豊富に含んでいます。
 それだけではありません。赤、緑、黄色といった鮮やかな色も、β‐カロテンと呼ばれる大切な栄養素なのです。

 β‐カロテンは、体内に入ると、必要に応じてビタミンAに変換され、皮膚や粘膜を健康に保つために働きます。βがあるということは・・・もちろん、α‐カロテンやγ‐カロテンも存在するのですが、β‐カロテンがもっとも効率的にビタミンAに変わることから、よく知られるようになりました。
 ただし、ビタミンAは脂溶性。からだの中にたまっていく性質をもっているため、過剰症(頭痛、吐き気、中枢神経系や肝機能の異常など)が問題になることがあり、特に妊婦さんは摂り過ぎないように注意が必要です。β‐カロテンの場合、必要な分だけがビタミンAとなるため、その心配はないといわれています。
 β‐カロテンは、ビタミンAとなって作用を発揮するだけではありません。それ自体にも抗酸化作用があるされ、紫外線から皮膚や目を守る、免疫力を高める、老化を防止するなど、さまざまな働きが期待されています。
 以前、タバコを吸う人が、サプリメントでβ‐カロテンを摂取すると、肺がんや前立腺がんになるリスクが高まるといった報告が出されたことがありました。食事から摂取するβ‐カロテンについては、その心配はないとのこと。
 また、コレスチラミン(イオン交換樹脂製剤)、コルヒチン(痛風治療薬)などの薬剤を服用していると、β‐カロテンの吸収が阻害されるとの報告があります。植物ステロールを含む特定保健用食品のマーガリンでも、β‐カロテンが吸収されにくくなることがあるとして、「果物、野菜類とともに摂取してください」との注意書きがされています。
 実際にβ‐カロテンの不足が問題になることはあまりないかもしれませんが、食生活を見直す意味でも、野菜や果物を上手に取り入れた食事を心がけたいものですね。

 ?年前の家庭科の授業。「ニンジンに含まれている“カロチン”は油で炒めると、吸収がよくなります」と習った方、少なくないのではないでしょうか。確かに、あのころはカロチンでした。でも、2000年に刊行された『五訂日本食品標準成分表』で「カロテン」に統一されて以降、あっという間にカロテンという言い方が定着。カロチンは懐かしい言葉の一つとなってしまいました。