カンゾウ

 「おいしくないことはわかってるんですけどね。時々むしょうに食べたくなるんです」と言うのは、カナダに留学経験のある友人。おいしくないのになぜか食べたくなるのは、リコリス菓子。電気コードのような黒い棒状の外見。素っ気ないパッケージ。食べても、ただ甘いだけ。しかもどこか薬っぽい独特の甘味。お世辞にもおいしいとは言えないらしいのですが、安い値段にひかれて食べていたら、いつの間にかクセになってしまった、とのこと。
 日本では、なかなか見つからないんですよ、と実に残念そうな口ぶり。確かに、リコリス菓子そのものはあまり見かけませんが、その原料の植物は、私たちとは、とても近い関係にあります。

 リコリスとは、カンゾウ(甘草)という名前のマメ科の植物。抗炎症作用、抗アレルギー作用などがあるといわれ、肝臓疾患、胃腸薬、咳止め、のどの痛み、便秘など、さまざまな症状の改善に用いられています。カンゾウを加えることで、漢方薬全体の調和がとれ、まとまるともいわれ、実に7割以上の漢方処方にカンゾウが配合されています。
 そしてカンゾウの主成分が、グリチルリチン。このグリチルリチンもかぜ薬、鼻炎薬、咳止め、目薬、かゆみ止め、水虫・たむし用薬、栄養ドリンクなど、実に多くの医薬品に配合されています。
 日本では、カンゾウをダイレクトに味わうような食品はないようですが、甘味料として、飲料、調味料(めんつゆ、ドレッシングなど)、漬物、菓子など、実にたくさんの商品に配合されています。リコリスティー、甘草茶などとして販売されていることも少なくありません。
一つ一つに含まれるカンゾウやグリチルリチンの量は少なくても、西洋薬と漢方薬、サプリメントや一般の食品、どれにも含まれている可能性があり注意が必要です。カンゾウやグリチルリチンを含む医薬品や食品を重ねて摂取したりすると、グリチルリチンのとりすぎとなり、偽アルドステロン症という副作用が起きることがあります。 
 アルドステロンは、副腎から分泌されるホルモンで、体内に水分やナトリウムを溜め込み、カリウムの排泄を促して、血圧を上昇させる働きをもっています。このアルドステロンが過剰に分泌されたときの状態とよく似た症状を呈することから、偽アルドステロン症。顔や手足のむくみ、血圧の上昇、筋肉痛、脱力感、動悸、吐き気などの症状がみられます。
ところでこのグリチルリチンの作用に対してとても敏感な人がたまにいらっしゃいます。たとえ量が少なくても、カンゾウを含む漢方薬やサプリメントなどを摂取した翌日の朝、目が腫れぼったいなと感じたらぜひ薬剤師に相談を。