梅肉エキス

 青梅に氷砂糖、広口ビン・・・スーパーの店頭に、梅酒づくりの材料が並ぶようになりました。梅の実が熟していくころに降る雨だから梅雨ともいわれるように、6月は梅の季節でもあります。

 まだ固くて青い梅をすりおろし、その汁を、とろみが出るまでゆっくりと煮詰めると、梅肉エキスが出来上がります。初めの青っぽい緑色からは想像できないような、光沢のある黒色をしています。青梅1kgから、20~30gくらいしかできない、まさに梅のエキス。
殺菌作用、整腸作用があるとされ、お腹の調子が悪いとき(特に下痢をしたとき)などに、古くから使われてきました。私の姑は、夫の腸チフスを梅肉エキスで治したのだと何度も聞かされました。きっと大量の梅を一生懸命願を込めて煮詰めていたのだと思うと母親の愛情が伝わってきます。また、疲労回復や食欲増進、夏ばて予防にもよいといわれます(梅肉エキスを水虫や湿疹に塗るという民間療法もあるようですが、逆に症状が悪化するおそれがありますから、これはやめたほうがよいでしょう)。
 ほんの一口、なめるだけでよいそうなのですが、当然ながら、かなりすっぱい。お湯に溶かし、蜂蜜などで甘味をつけて飲むと、おいしく摂取することができます。エキスを粒状にしたもの、飲料や飴にしたものなども販売されています。
 梅肉エキスの主成分は、クエン酸などの有機酸とムメフラール。クエン酸は、梅干しやレモンなどにも含まれる有機酸で、私たちの体内でエネルギーが生み出されるときに欠かせない物質、殺菌作用も期待大です。
 一方のムメフラールは、生の梅が加熱される過程で、クエン酸と糖質が結合してできるもので、1999年、独立行政法人食品総合研究所によって見出されました。生梅はもちろん、梅干しなどには含まれない梅肉エキス特有の成分で、同研究所はさらに、ムメラールに、血液の流れを改善する作用があることを確認したと報告しています。
 梅肉エキスに含まれるクエン酸は、ミネラルの吸収を高めることで知られています。もともと吸収されにくい性質の鉄や、不足しがちなカルシウムなどの吸収を助けてくれるのはよいのですが、アルミニウムの吸収も促進してしまいます。
 アルミニウムは、制酸成分(合成ヒドロタルサイトなど)や胃粘膜保護成分(スクラルファート、アルジオキサなど)として多くの胃腸薬に配合されていますが、大量に摂り続けると、アルミニウム脳症・骨症などを引き起こすおそれがあります。1、2回併用したからと言ってすぐに害が出るわけではありませんが、胃腸薬をのむことが多い人、腎臓が悪い人などは、必ず、医師・薬剤師に相談を。

 梅酒や梅干しづくりなど、梅に関わる作業のことを、「梅仕事」というそうです。うっとうしいばかりではない梅雨どきの、大切な仕事です。