グリシン

 グリシン?時計の会社ね、と思った方もいるかもしれません。グリシン社は、1914年創業のスイスの時計メーカー。同社が1953年に発売した「Airman」シリーズは、短針が1日1回転する24時間表示で、ベトナム戦争当時、多くの米軍パイロットに愛用されていたとのこと。国境を越え、日付変更線を越え、昼夜を越えて任務にあたる彼らにとって、24時間表示の時計は重宝だったのでしょう。

そのグリシン社とはまったく関係はないのですが、アミノ酸の中にも「グリシン」という名前をもつものがあります。地球上に最も古くから存在しているとされるアミノ酸の一つで、最も小さく、最もシンプルな構造をしています。
グリシンは、皮膚や骨、軟骨や血管などを構成するコラーゲンの3分の1を占め、からだの土台をつくっているほか、ヘモグロビン(赤血球に含まれ、酸素を運ぶ)やチトクローム(体内に入ってきた有害物質を解毒する酵素)などの原料としても利用されます。

近年、このグリシンが、睡眠の調節に関係していることが知られるようになってきました。
睡眠前に3gのグリシンを摂取した実験では、眠るまでの時間が短くなった、途中で目を覚ますことが少なくなった、夢を見ることが少なくなったなどの反応がみられたと報告されています。特に、からだも脳も休息状態にある深い眠り(徐波睡眠)がしっかり得られ、翌朝の疲労感やだるさなどが軽くなっていたころから、グリシンは「睡眠の質」を高めるのではないかと考えられています。

海外では、統合失調症の改善にも役立つのではないかともいわれていますが、ある種の統合失調症の薬とグリシンを併用したところ、症状が悪化してしまったという報告もあるようです。この薬は、日本で使われているものではなく、その他に相互作用が問題となるような薬剤も、今のところは知られていないようです。
しかし、睡眠だけでなく、精神面に何らかの影響を及ぼす可能性は否定できません。うつや不安、イライラ、不安定な気分などが続いている方、眠れない状態が続いている方、ぐっすり寝たはずなのに疲れがとれない方、あるいはこういった悩みで治療を受けている方などは、グリシンのようなサプリメントを試す前に、医師・薬剤師に相談するようにして下さい。

1988年、「24時間、戦えますか」というドリンク剤のコマーシャルが流行しました。一時、途切れたものの、最近、再び登場。朝・昼・夜のメリハリがなくなりつつある現代を象徴するようで、24時間表示の時計が必要な人もいるかもしれませんが、からだのリズムが社会のリズムについていけず、不調を訴える人が増えています。戦うときは戦う、休むときは休む、でいきましょう。