フィチン酸

 「大人の歯のくすみ、私はあきらめない!」。真矢みきさんが出演する歯磨き剤「ピュオーラナノブライト」(花王)のコマーシャルを目にされた方も多いでしょう。歯の表面に沈着した汚れを落とし、歯本来のつやを引き出すとされるこの商品に、光沢剤として配合されているのが、フィチン酸です。

歯磨き剤にフィチン酸が配合されるということは、これまではほとんどなかったようですが、フィチン酸そのものは、私たちがふだん口にしている食品にも含まれている成分で、取り立てて目新しい成分というわけではありません。
フィチン酸の別名は、イノシトール6リン酸。穀類や豆類などの外皮部分に多く含まれています。フィチン酸が豊富な食品としては玄米や米ぬか、小麦ふすまなどがあり、玄米100g中には約630㎎(白米100g中には100~120mg)のフィチン酸が存在しているといわれます。

かつて、玄米を食べると他の栄養素が吸収されにくくなるといわれ玄米が嫌われたことがありました。その原因物質とされたのが、フィチン酸です。フィチン酸には、カルシウムやマグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラルを、UFOキャッチャーのように挟み込むキレート作用があり、挟み込まれたミネラルの多くは吸収されないまま、排泄されることになってしまいます。このため、フィチン酸は、「体内で利用されないばかりか、カルシウムの吸収を阻害して"くる病"(骨の成長障害)の原因となっている」と悪者扱いされていました。

しかし、研究が進み、その評価は一転。抗酸化作用がある、便秘の改善に役立つ、大腸がんの予防になるなど、さまざまな期待が寄せられるようになりました。キレート作用も、血液中の有害な物質を挟み込み排泄を促すデトックス作用ととらえられるようにもなり、フィチン酸を多く含むサプリメントやコーヒー風味の飲料、発芽玄米なども人気を呼んでいるようです。
がんの予防については不明の点が多く、それだけを目的に摂取するのはちょっと問題です。精製された食品を摂ることが多い現代人。玄米食は、あまり加工されていない食品を摂ることも大切だと教えてくれているのかもしれません。ただし、極端に大量のフィチン酸を摂取すると、からだに必要な栄養素が十分に吸収されなくなることもありますから、摂取目安量は守りましょう。

ずいぶん扱いが変わったもんだ・・・フィチン酸のつぶやきが聞こえるようですが、それだけフィチン酸の可能性が広がったということ。その特性をよく知って上手に利用したいものです。