セレン

 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を参考にして栄養素の摂取量などを紹介していく第15回目は、その名が、ギリシア語の「月(selen)」に由来するといわれているセレンです。現在、私たちの体内には、セレンを含む蛋白質が25種類存在することが明らかにされています。セレンを含む蛋白質は、グルタチオンペルオキシダーゼのように抗酸化作用において重要な役割を担っているものが多いとされています。


 食事摂取基準で策定されているセレンの推奨量は、18歳以上の男性で30μg/日、女性で25μg/日、耐容上限量は男性260~300μg/日、女性210~230μg/日とされています。魚介類に豊富に含まれ、日本での平均摂取量は1日100μgといわれますから、極端に片寄った食事をしていない限り、セレンの不足は起こらないといえます。

 セレン不足や生体での働きが我が国で注目されるきっかけは2000年。セレンを含まない経腸成分栄養剤だけで長期間生活されている患者さんで、セレン欠乏による、心機能の低下(拡張型心筋症、不整脈)、爪の白色変化、筋力低下(筋肉痛、それによる歩行困難、筋ジストロフィー様症状)などが引き起こされたことによります。

 一方、2008年にはアメリカで、ダイエタリーサプリメントから過剰量(量不明)のセレンが検出され、著しい脱毛や筋肉の痙攣、下痢、関節痛、倦怠感などの症状がみられたとして、商品の自主回収が行われました。セレンについては最近、がんに効果があるのではないかといわれ、さまざまな研究が行われています。現在のところ、がんの発生率や死亡率の抑制効果が示唆されたという報告と、抑制効果はみられなかった報告との、両方があり、一定の見解は得られていないのが現状です。また、セレンの血中濃度が高いと群で糖尿病の発生率が高いといった今まで考えられていたものと逆の報告もあります。

 癌や糖尿病によいのではといったセレンのサプリメントの利用は止めたほうがよいでしょう。近年、インターネットを通じて、海外のサプリメントも入手しやすくなりました。しかし、成分の含有量や製品の表示など、あいまいなものもあります。特にセレンの場合は、必要とされる量と毒性を示す量が比較的近いので、自己判断で安易に摂取するのは控えましょう。


 「月」という美しい名前をもつセレン。その働きについても、月のように神秘的な部分がまだまだ少なくないようです。