コエンザイムQ10

 数年前、大ブームを巻き起こしたコエンザイムQ10(以下CoQ10)。あまりの人気に生産が追いつかず、売り場から商品がなくなってしまった店舗もあったほどでした。
 このときに初めてCoQ10を知った人も多かったようですが、CoQ10は新しい成分というわけではありません。発見されたのは1950年代。以後、医療現場ではユビデカレノンという成分名で、うっ血性心不全の治療に用いられてきました。1991年には大衆薬にも配合され、「軽度な心疾患により、日常生活の身体活動を少し越えたときに起こるむくみや動悸、息切れ」を改善するとしています。

 「コエンザイム(coenzyme)」とは酵素の働きを助ける補酵素のこと。キノン(quinone)という構造をもつ物質に、10個のイソプレンが連なって結合しているところから、こう呼ばれるようになりました。ユビデカレノンという名前は、「あらゆるところに存在する」という意味のラテン語「ユビキタス(ubiquitous)」に由来しています。

 その由来通り、CoQ10は細胞内のミトコンドリア、細胞膜、血液などに広く存在しています。ミトコンドリア内では、糖質や脂質、タンパク質などの栄養素と酸素から、解糖系、TCA回路などを経てエネルギーが生み出されています。 からだのエネルギー産生に欠かせないCoQ10。心臓のエネルギー不足を補うことで心収縮力を強め、心機能を改善させるといわれています。 強い抗酸化作用も有するほか、体内で合成されるCoQ10の量が、年齢とともに減少していくことから、老化と何らかの関係があるのではないかとの推測もあります。

 CoQ10は、メバロン酸を経て合成されますが、これはコレステロールの合成経路の一部と同じ。このため、メバロン酸の合成を阻害する薬剤(高脂血症治療薬のうちスタチン系薬剤と呼ばれるプラバスタチン、シンバスタチンなど)を服用していると、コレステロールだけでなく、CoQ10の濃度も低下することが知られています。
 スタチン系薬剤の副作用として、筋肉痛や下肢のむくみなど、その発現には、CoQ10の減少による筋肉のエネルギー低下が関与しているとも考えられます。ということは、サプリメントなどでCoQ10を補給することで、副作用を防ぐことができる―そんな可能性も示されています。