「たこの吸出し」という薬、ご存知ですか。赤・緑・黄色の格子模様。2匹のたこの絵が描かれたちょっと懐かしく、おかしみのあるパッケージ。吹き出物(おでき)の膿みが、文字通り“吸い出される”として、大正の初めに売り出されて以来、今も愛用する人がいるロングセラーとなっています。
 なぜ、効果があるのか。実はよくわからないところもあるのですが、この薬の正式名称は「吸出し青膏」。「青」の由来は成分の一つの硫酸銅で、殺菌作用を示すといわれています。
 銅は、私たちにとって必要不可欠なミネラルでもあります。体内に存在する量は80~100㎎程度とごくわずかなのですが、赤血球を作るのに働いたり、たくさんの酵素の働きを助けたりするなど、重要な役割をになっています。貧血といえば、すぐ鉄が思い浮かぶかも知れませんが、実は銅の不足でも起こるのです。
 ところで、銅がからだの中に蓄積してしまうウイルソン病という病気があります。3万~4万人に1人といわれるこの病気、遺伝子の異常によって、体内で銅を運ぶトランスポーターに異常が生じ、銅の代謝や排泄がスムーズに行われなくなってしまいます。
 その結果、脳や肝臓、腎臓などに銅が貯まっていき、進行すると、肝機能や言語、運動などに障害を生じることが少なくありません。銅の蓄積は目にあらわれることもあり、黒目の周りに生じた青緑色の線で、この病気に気づくこともあるようです。
 もちろん、遺伝子の異常も無く、一般的な環境の中で暮らし、一般的な食生活をしている場合、銅が不足したり、過剰になったりすることはほとんどないといわれていますが、最近 亜鉛の過剰摂取による銅の不足での問題が指摘されています。

 ここ数年、鉄やカルシウムのようにおなじみのものだけではなく、亜鉛やセレン、クロム、モリブデンなど、今まで脚光を浴びることが少なかったミネラルにも注目が集まるようになり、サプリメント売り場には、化学の実験室のような名前がずらりと並ぶようになりました。
 からだにいいと言われれば、試してみたくなる気持ちはよくわかるのですが、特定のミネラルだけを摂りすぎると、バランスが崩れてしまいます。前述したように、亜鉛によって銅の吸収が抑えられるため、亜鉛を摂りすぎると銅が欠乏してしまうことがあります。亜鉛は、スタミナアップ・精力増強によいといわれ、近年、摂取する人が増えているようですから、注意が必要です。
 このような関係は、カルシウムとマグネシウム、鉄と亜鉛、銅とモリブデンなどでも知られていますから、ミネラルを摂取する時には、何よりミネラルバランスに注意が必要です。特定のミネラルを取る時には、是非医療関係者に相談を。