マリアアザミ

 「春は菜の花、秋には桔梗、そして、あたしは夜咲くアザミ・・・」。中島みゆきのデビュー曲「アザミ嬢のララバイ」(1975年)の歌詞の中に、こんな印象的なフレーズがあります。
 初夏から秋にかけて、道端で、野原の片隅で、赤紫色の美しい花をつけるアザミ。葉の縁には鋭いトゲがあり、素朴な中にも孤高の雰囲気を漂わせるその姿は、歌のイメージにぴったりといった感じでした。

 「触らないで」という、“いかにも”な花言葉をもつ一方で、ヨーロッパでは古くから、食用として、民間薬として、生活の中で利用されてきました。アザミには多くの種類がありますが、その代表的な例がマリアアザミ。葉の白いまだら模様が、聖母マリアに捧げるミルクに由来するとして、この名がついたと伝えられています(英語ではミルクシスル、中国名は乳薊子)。
 2000年以上前から、肝臓や消化器などの病気に用いられてきたといわれますが、これは、マリアアザミの種子や葉に含まれるシリマリンという成分の働きによると考えられています。
 シリマリンは、肝細胞の再生を促すとともに、体内の有害物質の解毒を促進するグルタチオンという物質を増加させといわれています。グルタチオンは活性酸素を取り除き、過酸化脂質の生成を抑えてくれます。こうしたいくつかの作用によって、肝臓を守り、その機能を改善させてくれるのではないかと考えられます。
 日本でも、「肝臓によりサプリメント」として一般に知られるようになりましたが、ドイツのコミッションE(薬用植物の評価委員会)では、慢性肝炎や肝硬変、消化不良などへの使用を認めています。副作用としてはまれに軽い下痢が起こる程度で、安全性も高いといわれますが、肝臓が悪い人は、安易な摂取は控えるようにしましょう。
 肝臓によいサプリなのに?と思われるかもしれませんが、肝機能が低下していると、成分の代謝(分解、解毒)がスムーズに行われないため、思わぬ副作用を引き起こしたり、症状をかえって悪化させてしまったりするおそれがあります。これは、他の肝臓によいといわれるもの(ウコン、シジミなど)についても同じ。自己判断での摂取は避け、摂取前に、医師や薬剤師に相談するようにして下さい。
 マリアザミは、ある種の薬物代謝酵素の活性を阻害するともいわれます。服用中の薬剤がある場合も注意が必要です。エストロゲンの作用を弱めるとの報告もありますから、ホルモン療法を受けている人、女性ホルモン感受性の疾患がある人も、摂取は避けたほうがよいでしょう。

 中島みゆきの歌に青春時代が重なる、おとうさん。ちょうど肝臓が気になる年代かもしれません。たまには昔の思い出に浸りながら、リフレッシュしてみるのも悪くないと思いますよ。