バナジウム

 2007年上半期、ちょっとした流行語になってしまった「なんとか還元水」。問題の本流とははずれたところで、水道水を飲む・飲まない、還元水は効果がある・ないなど、“水論争”を巻き起こすことにもなりました。
 酸素水、アルカリイオン水など、からだによいといわれる水はたくさんありますが、その中で、バナジウムを含む水も、静かな人気を呼んでいるようです。

 バナジウムは、1831年、スウェーデンの化学者が、スウェーデン産の鉱石の中から発見した元素。北欧の神話に登場する美の女神・バナジスにちなんで、この名前がつけられました。
 超微量元素のバナジウムは、私たちの体内にも、マイクログラム(μg:㎎の1000分の1)の単位で存在し、細胞分裂の活性化、骨コラーゲン合成の促進、発ガン遺伝子への関与など、さまざまなところで働いているといわれています。
 特に注目されているのが、血糖値に対する作用。血糖値を下げるインスリンと同じような働きをするとして、糖尿病を予防・改善するといわれています。1日100mgの硫酸バナジウムを摂取した糖尿病の患者さんで、血糖値の低下がみられたとの報告もあるようです。
 富士山やアメリカ・カリフォルニア州のマウントシャスタなど、火山の噴火でできた玄武岩層を、長い年月をかけて通ってきた水は、カルシウムやマグネシウムの量は少なめですが、比較的多くのバナジウムが含まれていることが知られています。
ただ、多いとはいっても、含有量は100mL中5.5~13μg程度。この量で、どれだけの効果があるのか・・・残念ながら、あまり期待できないのではないか、というのが正直な印象です。
 だったら、たくさん飲めばいいじゃないか、と思われるかもしれませんが、何Lもの水の摂取は、血液中のミネラル濃度が低下し、水中毒を引き起こす可能性があります。また、バナジウムを取りすぎると、激しい下痢や腹痛などの消化器症状を起こすことがあります。特に糖尿病治療中の人にとってこのような症状は、低血糖を引き起こしやすい状態ともなりますから、注意が必要です。
 さらに、バナジウムばかりを多く摂ってしまうと、体内のミネラルバランスが崩れ、他のミネラルが不足するおそれもあります。それが本当にからだによいものであったとしても、特定のものだけを摂り続けることは、健康的、とは言えませんよね。

 からだによい水、安全でおいしい水はお金を出して買う時代といわれるようになって、どれくらいたつでしょう。「私たちのからだは、半分以上が水分。だからこそ、からだによい水を」と言われると、それも一理あるな、という気にもなりますが、そこは冷静に。大切なのは、バランスバランス。