にがり

 にがりを、「がんに効く」「あらゆる病気を治す」として販売していた獣医師が逮捕されました。1kg300円程度で仕入れたにがりを、1瓶(180g)15,000円で販売。1ヶ月に50万円以上を売り上げていたという“ボロもうけ”ぶりが大きく取上げられていた一方で、 にがりを摂取したお年寄りが、下痢から脱水症状を起こし、亡くなったとも報じられていました。少しでも健康になりたいと願う人の気持ちにつけこんだ罪。決して小さいものではありません。

 この一件で、数年前のにがりブームを思い出した方も多かったのではないでしょうか。「ダイエット効果がある」と健康情報番組で取上げられ、一躍、脚光を浴びたにがり。ドラッグストアからスーパーまで、にがり関連商品がずらりと並びました。
 糖や脂肪の吸収を抑える、エネルギー代謝を活発にするなどともいわれましたが、国立健康・栄養研究所は「科学的根拠がない」とし、過剰に摂取しないように注意を呼びかけました。
 にがりで体重が減ったという人もいたそうですが、にがりの主成分であり、下剤の成分でもある塩化マグネシウムによって排便が促されたり、体内の水分が失われたりしたことによる一時的なものだったのではないかと考えられます。
 もちろん、マグネシウムは、からだにとって欠かせないミネラル分。カルシウムとともに骨や歯を丈夫に保つほか、体内の多くの酵素の働きにも関係しています。現代人はマグネシウムの摂取不足、それが虚血性心疾患の増加にもつながっているとの指摘もあります。
 マグネシウムが、積極的に摂りたい栄養素であることは確かなのですが、にがりを利用するときは十分な注意が必要です。その一つが、必ず希釈して用いること。液体のにがりと清涼飲料水の入れ物が似ていたため、間違って飲んでしまったという事故も起きていますから、お子さんの手の届かないところに保管するといった配慮も忘れずに。
 腎機能が低下している人、透析を受けている人などでは、マグネシウムがうまく排泄されずに体内に長くとどまり、高マグネシウム血症を起こす心配もあります。下痢をしやすい人、体力のない人なども、下痢による脱水症状によって体調を悪化させてしまうおそれもあります。にがりの摂取は避けたほうがよいでしょう。

 にがりは、海水から塩分をとったあとの残りもの。それを、豆腐の凝固剤として利用してきた日本人の知恵に驚かされます。でも今、私たちはその先人の知恵を生かしきっているのでしょうか。