ビターオレンジ

 近ごろ人気の鏡餅は、2段重ねの上下一体パック。三方やウラジロの葉、扇などがセットになっていたり、ビニール製のミカンまでついていたり。でも、本来、鏡餅の上にのせるのは、ミカンではなくダイダイ。冬になっても果実が落ちることがなく、翌年、新しい果実と古い果実が一緒に枝になるところから、「代々栄えるように」との願いがこめられているといわれます。

独特の風味をもつダイダイですが、酸味や苦味が強いため、多くの場合、果汁を酢として使ったり、果皮を甘く煮たりして食されます。果皮は「トウヒ(橙皮)」、果実は「キジツ(枳実)」とも呼ばれ、胃の働きを助ける健胃薬や漢方薬などに配合されていることもあります。
 ダイダイというのは日本での名前ですが、英名はビターオレンジ。アロマオイルやハーブティーとして見かけることもありますが、アメリカでは、ダイエットサプリメントとしても人気があります。
 これは、ビターオレンジのシネフリンという成分が、交感神経系の働きを活発にして代謝を促進し、脂肪の燃焼を助けるためとされています。エフェドリンやカフェインなどを含むサプリメント「エフェドラ」が、心臓発作や血圧の急上昇などを引き起こしたとして販売中止となって以来、それに代わるものとして、ビターオレンジが注目されるようになりました。
 しかし、シネフリンにも心臓の機能を活発にする、血圧を上昇させるなど、エフェドリンと同じような作用があるため、心臓病や高血圧を悪化させるおそれがあります。食品として少し食べる程度であれば、まず問題になることはないと思われますが、心臓・血管系の病気がある人、体力が低下している人などは、ビターオレンジをサプリメントとして摂ることは避けましょう。
 また、エフェドリンはかぜ薬や咳止めに配合され、カフェインも多くの薬剤やドリンク剤、コーヒーなどに入っています。これらとシネフリンを一緒に摂取すると、同じ作用が重なり、有害な作用が出やすくなるおそれがあります。自己判断でのサプリメントと医薬品の併用は避け、必ず医師・薬剤師に相談するようにして下さい。
 なお、アンチドーピングルールでは、シネフリンは禁止物質ではありませんが、カフェインなどとともに興奮剤として監視物質に指定されています(エフェドリンは禁止物質)。検出されてもドーピング違反にはなりませんが、この点でも注意が必要です。

 今年も残りわずか。何かと苦い思いが残る一年だった方も多いかもしれませんが、来年こそはおだやかな日々でありますように。どうぞよいお年をお迎えください。