モモ

 3月3日は桃の節句。クレヨンで描いたような桃の花が、にっこりと春の訪れを告げています。花ももちろんいいのですが、ある年代の方にとっては、桃といえば「モモカン」かもしれません。病気で寝込んだときに食べた白桃の缶詰。どうしてあんなにおいしかったんでしょう。

モモはバラ科の植物。原産は中国ですが、弥生時代にはすでに日本に渡来していたようです。古くから邪気を払う果物、不老不死の果物として大切にされ、日本には「桃太郎」のお話がありますが、中国の「西遊記」でも、孫悟空が岩に閉じ込められたのは、天界のモモ園のモモを食べてしまったから、といわれています。
モモの実には、カリウム、マグネシウム、ビタミンC、葉酸などが含まれ、利尿作用や便通をよくする作用があるともいわれています。商品は多くありませんが、桃の実のエキスが加えられたサプリメントもあるようです。

そのモモの実を割ると、中に大きな種(正確には、核)が1つ。さらに、それを割ると、アーモンドのような形をした「仁」(じん:これが本当の種子)が出てきます。これは、「トウニン(桃仁)」と呼ばれ、血液の滞り(?血)を改善するとして、さまざまな漢方処方に配合されています。
代表的なものとしては、その名も桃核承気湯がありますが、他に桂枝茯苓丸、大黄牡丹皮湯など。いずれも、更年期障害や月経不順など、女性に使われることが多い漢方処方ですが、特に比較的体力のある人に適すとされています。漢方薬はのむ人の体質・体格・体調などと密接に関係していますから、試されるときには、必ず専門家に相談を。

トウニンの主成分は、脂肪油とアミグダリン。アミグダリンは青酸配糖体の一種。一時、「がんに効く」「痛み止めによい」などと騒がれたことがありましたが、現在のところ、そうした効果はないと結論づけられています。
アミグダリンに酵素が作用すると、毒性の強いシアン化水素が発生します。通常の加工品や漢方薬などでは問題になることはありませんが、「からだにいいらしい」と種を割って食べたりすると、青酸中毒を起こすおそれがあります。嘔吐や呼吸困難などを起こし、命の危険もありますから、決してなさらないように。

1年でこの時期だけ、スーパーやドラッグストアでよく売れるものがあります。それは、人形用の防虫剤。大きな雛人形を飾る家は少なくなったといわれますが、古くからの日本の行事は次世代にも受け継いでいきたいですね。