パントテン酸

 「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を参考にして栄養素の摂取量などを紹介していく第10回目は、パントテン酸です。ビタミンらしくない名前で、話題にのぼることもあまりない栄養素ですが、実はとても身近で大切なビタミンの一つです。


 「パントテン酸」というリズミカルな名前。「至るところに存在する酸」という意味のギリシヤ語に由来するといわれています。

その名前の通り、動物性食品から植物性食品まで、さまざまな食品に含まれています。マルチビタミンやビタミンB群、カルシウム(パントテン酸カルシウムとして)などのサプリメントに入っていることも少なくありません。わずかではありますが、腸内細菌叢によって体内でも合成されていますから、普通の食事をしていれば不足することは、まずないといわれています。

 実際に平成20年国民健康・栄養調査の結果を見ると、パントテン酸の摂取量は、20歳以上の男性で5.75mg、女性では5.03mg。食事摂取基準に示された目安量(特定の集団における、ある一定の栄養状態を維持するのに十分な量)は18歳以上の男性で5~6mg、女性では5mgとなっていますから、男女とも必要な量を満たしていることがわかります。

 パントテン酸はまた、体内の至るところでも働いています。パントテン酸は、コエンザイムA(CoA)という補酵素の構成成分であり、糖質、脂質、タンパク質という三大栄養素からエネルギーが生み出されるときに、重要な役割を果たしています。

 このようにエネルギーの産生をスムーズにしているほか、HDLコレステロール(善玉コレステロール)を増やす働きがあるともされ、さらには、抗ストレス作用のある副腎皮質ホルモンの産生にも関与して、ストレスに強い状態をつくってくれるともいわれています。パントテン酸誘導体のパンテチンは、一般用医薬品として、血清コレステロールの改善などにも用いられています。

 通常は不足することがないパントテン酸ですが、不足すると、成長障害や副腎障害のほか、手足のしびれと灼熱感、知覚異常、めまい、不眠、頭痛など、さまざまな症状が現れるといわれています。


 常にそこにあって、周りに目を配りながら、黙々と自分の仕事をしているパントテン酸。軽やかな名前のわりには、ちょっと渋くてカッコいい存在、といったところでしょうか。