「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を参考にして栄養素の摂取量などを紹介していく第26回目は、鉄です。“世界的に最もよくみられる栄養失調”ともいわれる鉄欠乏症。日本も例外ではありません。


 私たちの体内にある鉄の約7割は、赤血球中のヘモグロビンと結合して、新鮮な酸素をからだのすみずみまで運んでいます。残りの3割ほどは肝臓や筋肉などに、貯蔵鉄として蓄えられています。この貯蔵鉄があるおかげで、少しぐらい鉄が不足しても、すぐに貧血の症状がみられることはないのですが、症状が現れたときには鉄欠乏がだいぶ進んでしまっているということにもなります。

 貧血の症状としては、顔色が悪い、立ちくらみがする、疲れやすいなどのほか、爪の中央部分がへこむ「スプーン爪」がみられることがあります。氷や土、紙、チョークなど食べたくなる「異食症」や、脚や腕などがむずむずしてじっとしていられない「むずむず脚症候群」などにも、鉄欠乏が関連しているといわれています。

 食事摂取基準による推奨量は、18~69歳の男性では7.0~7.5mg、女性では10.5~11.0mg(月経のない場合は8.5~9.0mg:月経による鉄の損失が、重要だということがわかります)。耐容上限量は男性50~55mg、女性40~45mgとなっています。多くの栄養素の場合、推奨量は小児よりも成人のほうが多いのですが、鉄の場合は異なります。推奨量が最も多いのは男女とも12~14歳で、男子は11.0mg、女子は14mg(月経のない場合は10.0mg)とされています。

 しかし、平成20年国民健康・栄養調査の結果を見ると、1日の鉄の摂取量は、20歳以上の男性で8.4mg、女性は7.8mg。男女とも推奨量を下回っていました。また、成長期にある7~14歳の男子での摂取量は7.4mg、女子は6.5mg。年齢の区分が異なるため、正確な比較はできませんが、女子は推奨量の半分以下という結果でした。1990年以降、中学・高校の女子生徒の貧血有病率は増加傾向にあるとの報告もあります。

 鉄は、植物性食品(大豆製品やほうれん草、小松菜など)にも動物性食品(レバー、あさりなど)にも含まれています。動物性食品に含まれるヘム鉄のほうが吸収されやすいことが知られていますからベジタリアンの人は注意が必要です。結局大切なのは、少しずつでも、いろいろな食品を摂るように心がけることですよね。


 ただし、C型肝炎や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などの場合、肝臓に鉄が蓄積することがあり、症状の悪化にもつながります。ウコンやシジミなど、「肝臓によい」とされるサプリメントには鉄を豊富に含むものがありますから、摂取前に医師・薬剤師に相談するようにして下さい。