桃仁

 3月3日は、お雛様。桃の節句です。子供のころ、母は自慢のちらし寿司とハマグリのお吸い物で祝ってくれました。私も母がしてくれたように、娘に対して3月3日の行事として祝っています。でも、よくよく振り返ってみると、そのお祝いの席には桃の花があったという記憶はなく、花より団子ということなのでしょうか。

 ところで、この桃の果実や葉は、民間療法として、あるいは漢方薬として古くから利用されてきています。桃の葉は、入浴剤として使用され汗疹などの治療に用いられてきました。現在も桃の葉のエキスを含むローションやクリーム、入浴剤などが販売されています。

 また、果実は、果肉をとり、中の核の外の硬い殻を割り、種子を日干しにしたものが桃仁として漢方薬に使用されています。桃仁を含む漢方薬で有名なのが桂枝茯苓丸。漢方で言うところの、於血の状態に使用されます。於血とは、血液の流れが滞った状態で、血の道症などともいわれます。

 桂枝茯苓丸は、血液の流れを改善する薬といえ、医療用医薬品として使用される時の効能・効果は「体格はしっかりしていて赤ら顔が多く、腹部は大体充実、下腹部に抵抗のあるものの次の諸症、子宮並びにその付属器の炎症、子宮内膜炎、月経不順、月経困難、帯下、更年期障害(頭痛、めまい、のぼせ、肩こり等)、冷え症、腹膜炎、打撲症、痔疾患、睾丸炎」となっています。このような保険医療で認められたものの他にも、ニキビやシミ、しもやけなどにも使用されています。更年期障害の方によく利用されることから「当帰芍薬散」「加味逍遙散」と合わせて「婦人科三大処方」の一つとされています。

 桃は、古くから邪気を払う作用があると信じられてきました。古事記にもその記載があり、イザナミノミコトにもう一度会いたいと、黄泉の国に向かったイザナギノミコトが、黄泉の国の人になってしまったイザナミノミコトと化け物から逃げる時、黄泉の国の入り口へと降りる坂にあった桃の木から桃の実を三つ取って投げつけると、化け物たちはみな逃げていった。とか。桃太郎の鬼退治も、有名です。

 女の子の成長を喜び、祝う習慣。邪気を払ってほしいとの願いがこめられた桃の節句。桃の葉は、入浴剤に、クリーム、ローションとして肌を健やかに保ち、桃仁は血のめぐりを健やかにしてくれます。桃は、女性にとって、とても有用な植物といえます。

 もっとも、私にとっての桃は、やはりその果肉。白桃、黄桃・・・。桃は美味しいですよね。