プソイドエフェドリン

 OTC薬のネット販売全面解禁。マスコミの報道に一瞬耳を疑いました。そんなことが許されるのか。薬は、その使用を間違うと大きな問題につながる可能性があります。クスリはさかさまから読むとリスク(危険)。正しい使い方が大切です。薬剤師に相談していただくことが大切と、いつも書いてきました。

 薬のリスクについて考えるとき、三つの視点から考えることが大切です。一つは、薬そのもののリスクが高いもの。二つ目は使用される人の条件によってリスクが高くなる薬。三つ目は社会的なリスクです。ネットでの販売に当たっては、この3番目のリスクこそ検討されなければならないはずです。社会的犯罪に使用されたり自殺に使用されたりする薬についてです。

 例えば、プソイドエフェドリンという薬が、あります。この薬は、交感神経刺激成分で、血管収縮作用を持ち鼻粘膜の充血やはれをおさえ、鼻づまりを改善する薬です。鼻づまりを解消してくれ、とてもよい薬です。この薬のリスクを、三つの視点で考えてみると、一つ目の薬の危険性は、高いとは言えません。二点目の視点で考えると、この薬は、交感神経を刺激するため、血圧、血糖値や心拍数を上げる可能性がありますから、高血圧症、糖尿病、心疾患がある人、甲状腺疾患の人はこの成分を含む薬の使用は避ける必要があります。これらの疾患を有している人には、リスクが高い薬といえます。OTC薬の購入と使用は自己責任です。基礎疾患がある人は、薬剤師に相談して購入してほしいと思います。

 そして、三つ目の視点。社会的に見たときの危険性についてですが、実は、この成分から覚せい剤が合成できるということです。ただ覚せい剤の合成過程で、有害物質が発生したり、爆発が起こったりと問題を起こしています。

 以前、アメリカで、これらの薬を買い集め違法ドラッグを自宅工場で生産し、自宅が爆発して死傷者が出たり、ドラッグ製造中にでた化学物質を吸い込んだ近隣の住民を病気にしたりしました。そして、それがわかるとその家もその地域も不動産価値が落ち、地域荒廃が始まる。そんな悪いサイクルが起きていたそうです。個人の乱用以外に、社会的経済的な影響は思いのほか深いのです。これらの問題からアメリカはじめカナダ、オーストラリアなどいろいろな国で、要薬剤師薬として薬剤師からしか購入できない、あるいは医師の処方せんがないと購入できないなど、その規制はかなり厳しいものとなっています。

 今回の、OTC薬のネット販売の解禁は、一点目のリスクのみを検討してネット販売全面解禁ということになったようです。社会的危険性を是非知って対策を考えてほしいと私は、思っています。今からでも遅くはありません。どうか現政権に再検討を望んでいます。個人としてリスクが高い薬と、社会としてリスクが高い薬の存在をぜひ知ってほしいと思います。