胃酸

 胃酸が逆流することで引き起こされる不快な症状、胸焼けがしたり、酸っぱい液体が口まで上がってきてゲップが出たりする呑酸。このような症状を引き起こす疾病が胃食道逆流症。すっかりテレビのCMで有名になった疾病名ですが、その治療に使用されるのがプロトンポンプインヒビターと呼ばれる薬。胃酸の分泌を抑えて胃の中のPHを24時間、中性近くに保ちます。

 胃酸の分泌が抑えられるので、たとえ逆流してきても食道に炎症を起こしたり、胸焼けなどの不快な症状が引き起こされずにすみます。胃酸は胃潰瘍や十二指腸潰瘍、逆流性食道炎を引き起こす原因として、問題となるわけですが、胃酸そのものは、生体にとって、大切な働きを持ち、本来なくてはならないものです。

 胃酸は、PH1~2前後の塩酸という強酸であることから、食物などに含まれる雑菌などに対して、殺菌効果があります。今でこそ、胃の粘膜にヘリコバクタ・ピロリが存在することは常識となっていますが、発見当初は、胃酸のある胃の中に、細菌がいることはにわかには信じられないという状況でした。

 また、蛋白質の消化酵素であるペプシンも、胃腺中では不活性なペプシノーゲンとなっており、胃の中で胃酸に触れることで始めてペプシンとなって消化酵素として働きます。この他にも、ビタミンやミネラルの吸収にも欠かせない存在です。

 例えば、ビタミンB12は、豚肉などの蛋白質からの吸収するためにはビタミンB12を切り出すことが必要で、その働きをするのがペプシンです。鉄については、もともと吸収率が低いミネラルですが、主に、2価のイオンの形で吸収され、3価になるとほとんど吸収されません。胃酸には胃の中を酸性にすることで、2価から3価への酸化を防止し、鉄の吸収を促進するという重要な働きがあります。カルシウムの吸収にも胃酸が関係しています。

 ところで、肥満大国アメリカ。脂肪の多い食事など・・・。アメリカ人では、その体型や食事などの影響から胃食道逆流症を引き起こす人が多く、プロトンポンプインヒビターはOTC薬として市販されています。そこでプロトンポンプインヒビターを長期連用する人が多くなり、プロトンポンプインヒビター長期連用時の問題が指摘されるようになりました。

 胃内での細菌の定着。その結果下痢を引き起こす人が多くなったり、逆流してきた胃の中の細菌による誤嚥性肺炎。さらに、カルシウム吸収不足による骨粗鬆症の発生などです。

 胃酸分泌を抑制し、胃酸による不快な症状から守ってくれるプロトンポンプインヒビター。しかし、その長期連用には胃酸が出ないことによる問題が引き起こされるということです。長期連用する場合には、カルシウムの併用や整腸剤の併用が必要なることもあります。また、就寝中に胃の中のものが逆流してこないように上半身を高くして眠ったり・・・。薬を安全に使用するためには、気を付けるための情報が不可欠です。