貧血

 テレビでくり返される薬のCM。「コンビニエンストアでしゃがみこんでいる女性。立ちあがる時にめまいが。クラっとする貧血に、と勧められているのが鉄を主成分とする商品。」でも、ちょっと待って。立ちあがってクラっとするのは脳貧血。脳の血液循環量が一時的に減少することで引き起こされるもので、起立性低血圧などが有名です。

 一方の鉄欠乏性貧血は、脊髄のヘモグロビン産生が低下して生じるもので、体内の各組織が酸素不足になります。組織への酸素供給は、脳や心臓などの酸素需要の大きな組織に対して優先的に確保されるため、皮膚への血流がまず低下するため、皮膚や粘膜の蒼白化が見られます。よくアカンベーして粘膜の色を確認するのはこんな理由からです。

 また、組織に送る酸素が不足するのですから血流を増加させる必要があり、動悸が起こります。症状がすすむと筋肉への酸素供給の低下から、筋力の低下、倦怠感が、脳への酸素供給の低下からめまい、頭痛、イライラ、眠気等の症状が現れることになります。爪に縦にしわが入り、中央がくぼんでスプーン状になったり、舌の乳頭が萎縮して、舌が痛んだり、のどの粘膜が委縮して物がのみこみにくくなったりすることもあります。

 それから、特殊な症状として知っておきたいものに「異食症」があります。氷、土、粘土、洗濯のり等、栄養価のない特定のものを大量に食べ、それを止めることができないという症状です。特に大量の氷(1回に製氷皿一皿分ぐらいを軽く食べてしまうことがある)を食べたがる場合は「氷食症」とよばれ、特に思春期の子どもを中心によく見られるといわれています。

 なぜ、氷ばかり食べたくなるのか。脳の酸素不足による自律神経の乱れから、口腔内の温度が上昇する可能性などが考えられていますが、その理由は明らかではありません。

 思春期の女性は、月経で血液(鉄)を失うだけでなく、ダイエットなどで必要な鉄などの補給も十分ではありません。氷ばかり食べたい。そんなあなた、貧血かもしれません。一度病院での検査をお勧めします。

 注意したいのは、貧血だから鉄分をOTC薬やサプリメントから摂取すればよいといった単純なものではないことです。貧血の裏に様々な疾患(リウマチ、膠原病、潰瘍性大腸炎などの慢性炎症性疾患、慢性感染症、悪性腫瘍、腎疾患、下垂体・甲状腺・副甲状腺・副腎等の内分泌疾患なども貧血を引き起こします)が隠れているかもしれません。

 病院に行く目的は、検査と診断。その結果の治療がOTC薬で対応できるのであれば、その後はOTC薬で治療。そんな医療の流れが、医療費削減の中で重要ではないでしょうか。鉄欠乏性貧血です。それならOTC薬で対応します。そんなふうに言える人が多くなるといいな・・・。と、薬剤師として思っています。